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 雪夜の晩に、不似合いな光景が並んでいた。
 警察の前。
 十五、六丁はあろうかと言う拳銃を各々の腰のホルスターに収め、警官たちがその雪の上を歩き出した。
 前で二手に分かれる。
 右の陣を取るのは、バムジェイの元同僚…リュベリ警部補。髭がりりしいが、頭の方が薄くなりかけていた。
 左の陣の指揮は作戦通りバムジェイ。数は少ないが、精鋭ぞろいらしく、傍にはリーデンの姿も見える。
「行くぞ」
 低いバムジェイの声とともに、左の部隊が散る。まとまっていては怪しまれる恐れが多い。
 リーデンはバムジェイの後ろをぴったりとくっついて走っていた。ロングコートが翻る、その走りづらさを思うと、なんだか切ない。
「バムジェイさん」
「なんだ」
「こうして大人二人が夜の街を走っていると、こっちが悪者みたいですね」
 妙に納得してしまって、バムジェイは答えを返さなかった。
「………無駄口叩いている暇があるなら、地域住民の避難にでもあたれ」
「今からじゃ到底間に合いませんし、避難させたら一発で何かおかしいってばれちゃいますよ」
 確かに。
「意外と、バカですか?」
「公然と言われると、癪に障るな」
「今時は「ムカつく〜」って言うんですよ、ほら、さん、はい」
「言えるか」
 バムジェイは、その雪の上のスピードを速めた。
「わ、待ってくださいよ」
 バムジェイとリーデンは住宅街の狭い路地、その少し走れる位の少し広い塀の上に立った。
 背後で、咳がする。
「風邪か?」
「やられたのは喉だけです。いけます」
 相変わらず少し高めの声で、リーデンが言った。
「無理だけはするな。奴が俺とリュベリで戦った時の得物をまだ持っていたら、よほどうまくやらないと俺達に勝ち目はない」
「分かってますよ。元々、僕は肉弾戦向きじゃありませんから。後方で部隊の指示を出します、思う存分戦ってください」
「流れ弾にあたって死ぬなよ」
「何を言うんですか!僕は訓練中、弾を跳ね返して教官に当てたくらいですよ!」
「それは跳弾と言うんだ。後方支援に徹していろ。くれぐれも拳銃を打つなよ」
 それだけを言うと、バムジェイは拳銃をホルスターから抜いて、弾を確認し、両手に持ちながら器用に塀の上を歩き始めた。
「気をつけてくださいね」
 後ろから小声でリーデンの声が聞こえる。
 寒さは、心なしか増していた。
 降りる雪にも重みが増し、吹きすさぶ風は威力こそ未だないが冷たさが段違いに分かる。
 握る手が、おかしくなりそうだった。
 必死で堪え、ようやく目的の建物に着いて塀から下りた。着地する時足下で色んな音がしたが、雪が少しだけクッションになってくれて助かった。
 拳銃を握り直すと、家の中から少しだけ漏れる明かりが、ちらりと視界の端に映る。壁伝いに裏口のほうへ擦り寄って行くと、先に向かったバムジェイ部隊の一人に出会った。
 おそらく奴でも、一度にあの数を相手に戦いはできない。
 となれば、裏口や別の場所から逃げると言うのがセオリーだろう。
「裏口は、どこだ?」
 バムジェイの言葉に、警官は無言でついて来てほしいと言うようにジェスチャーを出した。頷いて、二人雪の中を壁伝いに移動した。
 足がとられてそれだけで、ゆうに二分以上はかかった。
 後は、表のリュベリ部隊に奴がどう反応するかだ。
「…………」
 複雑な祈りを込めて、バムジェイは撃鉄を静かに上げた。