「秋風」
秋の風は 他の季節に比べて 軽い
きっとその腕の中に
何も抱えていないのだ と私は思う
まるで がらんどうの心のように
そしらぬふりをして
ただ 横を通り抜ける
だから この季節の風は
僕らが余計に感じる寂しさを
その腕の中に抱いて 運んでくれるのだ
あの日交わした 言葉を
重なった掌のぬくもりを
幼稚で 我儘だった日々の 全てを
それでも あの日の風は
「さよなら」だけは
運んでいっては くれなかった
さよなら
落ちてゆく気温の その果敢なさに呟く
それは 心にたった一つ 残る物の名前