あおずけ



「………ふぅ」
 俺は、あからさまに「疲れました」と溜息をついた。
 目の前には、正装と学生服の人、人、人。
 少し汗ばんだ陽気と空の色は、まさに春。

 この時期になると行事のたびに、校門がごったがえす。
 泣いてる奴、写真をとりまくる奴。アルバムに書きあってる奴。ガクランのボタンが全部なくなって、首の裏のカラーまで取られた奴。
 そんな騒ぎを、俺はいつも遠巻きに、部外者面して眺めている。
 ま、自分達の卒業式に賑わいがないのは逆にすげー奇妙だし第三者的にも寂しいからこれでいいんだけど。

 俺は、ぼろぼろになった携帯電話を取り出して、傷ついた液晶を眺めてみる。
 バイブにしてんだから電話なりメールなり、くればすぐ分かるのも知ってるけど、それでも見ないわけにはいかなかった。

 まさか、忘れてんじゃないだろうな、アイツ。

 そんな思いが鎌首をもたげて、さらに俺を焦らせる。
 でも、これは俺達が、半年も前に決めた約束。
 『互いに干渉をしない』こと。
 甘えてしまえば、寄りかかることに慣れてしまうから。
 今となっては俺には、ただアイツの声を待つことしか許されていない、約束。

 今日は卒業式にも出られなかった、アイツの合格発表日。

 担任は全て知ってたから、それを承知で俺に卒業証書と、紅白饅頭を二つくれた。
 「受かるといいね」って、それだけ。
 でも、もう聞くこともないその言葉が一番ありがたかった。

「………いい天気」

 掌に握り締めたままだった携帯が、静かに振動を伝える。

 俺達の、長かった冬が終わる。


[終]