でんわのあと
「っと、もうこんな時間か」
「あ、ホントだ」
「んじゃ、そろそろ切るよ」
「あー………」
「……ん?」
「あ、ううん。やっぱ、なんでもなかった」
「なんだよそれ」
「いいの。自己完結って奴」
「そ。それならいいや。んじゃ、また明日。おやすみ」
「………おやすみ」
相手の通話が切れるのを未練がましく待ってから、私は携帯の通話を切った。ついでに緊張の糸も切れたように、体から力が抜けてゆく。
「………はぁ」
背後にあるベッドに寄りかかって、天井を仰ぐ。
誰にともなく溜息が漏れるのは、ほぼ毎日の電話の後に必ず起こるオマケのようなものだった。
もはやクセに近くなっていると自分で分かっていても、クセとは自分が「そうしたいからそうなった結果」であって、気づいたところで早々治るものではない、と私は思っている。
「………」
そのまま、目を閉じる。
少し話し疲れてちょうどよい眠気も誘っていたけど、それ以上に胸の奥に思いが澱んでいた。深呼吸すればするほど、その重さがしっかりと実感できる。
そのうち、それが深呼吸か溜息なのか、自分でもよく分からなくなる。
紛れもない、重症だ。
「うー…………」
呻き声の合間に、さっきカーペットの上に落とした携帯を拾い上げる。
見なくても、一番最後の通話履歴位は出せる。
あー、でも。さっき切ったばっかりだし。
理由もないのにかけたら、迷惑だろうしなぁ。
なんかうまいこと理由はないかなぁ。
液晶を眺めながら上体を横にして、頭をカーペットに落とした。
あの人はこんなこと絶対考えてないことが、ちょっと不公平にも感じる。
こんな様を見たら、なんて言われるんだろう。いつもみたいに「バカだな」って言うのかな。………多分、いや絶対、言う。
でも、それでもいい。
出来ることなら、今すぐあの首にでもしがみ付きたい。
できないなら、せめてもう一度声ぐらい………。
「あー………もー」
暖房の横にかかる壁掛けの時計は今、十一時四十分。
この眠れない夜を、私は一体どうやってすごせば良いのだろう。
手の届く範囲にあった丸いクッションを抱きしめて、その比べようもない頼りなさを感じる。
「………はぁ」
また、溜息が漏れる。
[終]