長い口付けの後、汗ばんだ首筋をついばむように吸うと、彼女はくすぐられたように身を固くした。
「ふ…………く」
嫌悪の中に混じり始めた明らかな悦びに、私は口の端を皮肉にゆがめる。
じっと羞恥に耐える様は、罪悪と、さらなる被虐を生む。
経験のない感覚に崩れ落ちそうな腰をそっと抱きよせる僅かの間、多少強引な攻めから解き放たれた甘い息が耳元に零れた。
「………辛いなら、やめようか?」
答えは分かっていて、その耳元に静かに囁く。
抱きよせた彼女の体を静かにベッドの端に下ろして顔を離すと、間近に彼女の顔が在る。
頬は染まりかけた林檎のように仄かな朱を、触れれば火照った肌理の細かい肌の感触が心地よい。
「え………」
頬から、震えの止まらない唇の先へ指を這わせると、頑なに逸らしていた視線がつい、と私のほうを向いた。
夜が持つ深い闇の中、わずかに光を照り返す瞳に宿る色は完全な怯え。
私が放った「問い」の逡巡を繰り返すうち、みるみる動揺の色が混ざるのが分かる。
奥に恥じらいと不安とを、隠し通すこともできずに初いた顔が私を伺う。
「………」
「いいんだよ、やめても」
できるだけ優しい声で、唇の先から指を少しずつ離す。
………どうせ、初めからそんなことはできはしないのだけれども。
無力という枷を嵌められた彼女に、選択肢はないのだから。
そして、こういう形でしか彼女を救えない私にも同様、選択肢は残っていない。
引きかけた私の手首の辺りを、彼女の両手がするりと引き止めた。温かみを帯びたその震える掌に、微弱な力が篭もる。
「………いえ」
「………」
「だいじょうぶ………だから」
誰に言ったものか定かではない言葉だったが、それは捻じ曲がった了承の合図だった。
「…………」
つかまれた腕を伝うように、肩をそっと掴む。
払った髪からふわり、立ち込めていた倒錯的な匂いが漂う。
諦めたのか、彼女は再び近付いてくる私には何も反応せず、ただその続きを待っていた。
彼女にそっと、力をこめる。
ゆっくり、ベッドに沈めてゆく間、彼女が一言二言、小さく何かを呟いた。
神への祈りか、はたまた―――。
覗き込むように、その哀れな頬を両手で包み込む。
言葉だけでは自らを諦めさせるのに足りなかったのか、彼女の清らな瞳は、やはり私を黒く映し出していた。
「自分を哀れに思うなら、せめて今夜だけは、可愛い声で鳴いておくれ」
――――せめて罪深き私に、甘い歌を奏でておくれ。
覆いかぶさるように、何も言わせないように。
私はもう一度、ただじっと自分を見あげる彼女の口を塞いだ。
[終]